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「気管支鏡による検査,治療について」Q&A(改訂版) - 一般のみなさまへ - 日本呼吸器内視鏡学会

「気管支鏡による検査,治療について」Q&A(改訂版)

最終更新日:2023年2月7日 

気管支鏡(気管支ビデオスコープまたは気管支ファイバースコープ)は,気管・気管支や肺など呼吸器の病気にかかった患者さんにとって重要な器械で,気管・気管支内を観察すると共に,組織や細胞を採取して正確な診断をつけたり(気管支鏡検査),気管・気管支が狭くなる病気などを治療したりする(気管支鏡下治療)場合に用いられます.
ここでは気管支鏡を使用してどのように検査するのか,どのような治療法があるのか,その概要について患者さんの疑問にお答えするようにQ&A形式で説明いたします.なお,文中の注釈をつけた専門用語については最後のQ&Aで解説していますのでご参照ください.

Q1:気管支鏡とはどんな器械ですか?(図1)

A1:気管支鏡は直径3~6mm程度の細くて柔らかい管で,胸の奥深くにある肺につながる気管・気管支の中をのぞき見る器械です.胃カメラと同じ構造ですが,胃カメラと比べると大変細くできています.

図1図1

図1 気管支鏡(気管支ビデオスコープ)

Q2:気管支鏡検査とはどんな検査ですか?(図2)

A2:肺または気管・気管支など呼吸器の病気を正確に診断するために,口または鼻からのどを通して気管支鏡を挿入し,気管や気管支の内腔を観察したり,組織や細胞,分泌物などの検体を採取したりする検査です.

図2
図2 気管支鏡で気管・気管支内を観察します

Q3:気管支はどのように見えるのですか?


A3:1本の気管が左右の気管支に分かれて,それぞれがさらに分岐を繰り返して呼吸をつかさどる肺胞に達します(図2).気管支は分岐するたびに細くなっていきますが,気管支鏡では通常,直径5mm程度の亜区域気管支と言われる気管支まで内腔の観察ができます.実際には二股に分かれた土管の内腔を覗いているように見えます(図3).

図3
図3 気管支鏡で見た気管支内の様子


Q4:どんな症状がある時,どんな病気が疑われる時に気管支鏡検査を受ける必要がありますか?

A4:次のような症状や所見がある時に医師から気管支鏡検査を勧められます.

  1. 痰に血液が混じる時
  2. 原因不明の咳が続く時
  3. 胸部レントゲン写真やCT写真で肺に異常陰影がみられ,肺癌や肺感染症などが疑われる時
  4. 喀痰検査で癌細胞を疑う所見がみられる時
  5. その他,肺,気管,気管支に異常が疑われる時

Q5:麻酔はかけるのですか?

A5:あらかじめ,口からのどに霧状の麻酔薬を吸入あるいはスプレーして不快感を取り除くようにします.最近は併せて鎮静剤の注射を行うことが多く,その際には検査終了後鎮静剤の作用を弱める薬剤を使用することもあります.

Q6:気管支鏡検査はどんな手順で行いますか?

A6:気管支鏡検査の手順を説明します.

  1. 検査前の一食は絶食となります.
  2. 検査直前にのどの麻酔をします.
  3. 検査の際には薬剤が目に入らないように目を保護しながら行います.また,酸素を吸ったり,酸素濃度モニターや心電図モニターを装着したりすることもあります.
  4. ベッドに仰向けに寝ていただきます.気管支鏡を口または鼻からのどを通して気管支まで挿入します.口からの場合にはマウスピースを口にくわえていただき,鼻からの場合には局所麻酔薬を鼻に塗ります.なお,検査の種類によっては先に気管内にチューブを入れてから検査を行う場合もあります.
  5. 一般に,左右すべての亜区域気管支と言われる直径5mm程度の気管支まで観察し病変の有無を確認します.途中で咳が出る場合には気管支内へ局所麻酔薬を追加投与します.検査中は普通に息をすることはできますが,気管支鏡が声帯のすきまを通り抜けるので声は出せません.もし異常を感じた場合には,検査前に医師からいわれた合図(手でベッドをたたくなど)で知らせてください.検査中はできるだけ肩の力を抜いて静かに呼吸をしてください.危険ですので絶対にご自分で気管支鏡などの器械を触らないでください.
  6. 病変(注1)がある場合には病変部を精密に確認したり,レントゲン透視(注2)や超音波を併用して細胞や組織を的確な部位から採取したりします.生理食塩水を入れて洗浄することもあります.
  7. 出血などの偶発症が起きていないことを確認してから,気管支鏡を抜きとって検査を終了します.検査時間は通常20~30分程度ですが,検査,処置の内容によってはさらに時間を要する場合があります.
  8. のどの麻酔はすぐには切れません.検査後2時間は水や食物を摂らないようにしてください.2時間がすぎたら最初は少量の水を飲んでむせないことを確かめてください.むせなければ食事をしても大丈夫です.

     

Q7:気管支鏡検査にはどんな種類がありますか?

A7:組織,細胞などの検体を採取する方法によって以下の検査があります.

  1. 直視下生検(気管支内生検)(注3)
    気管支鏡で直接見ることが出来る病変から組織を採取します.
  2. 経気管支肺生検(TBLB;ティービーエルビー)
    気管支鏡で直接見ることのできない末梢肺の肺組織を採取します.
  3. 経気管支生検(TBB;ティービービー)
    気管支鏡で直接見ることのできない末梢肺にある腫瘍病変などの組織を採取します.
  4. ブラシ擦過(注4)
    小さなブラシで病変部をこすり細胞を採取します.
  5. キュレット擦過
    先端の曲がる小さな鉗子で病変部をこすり細胞を採取します.
  6. 針吸引
    病変部に針を刺し組織や細胞を吸引して採取します.
  7. 超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA;イーバスティービーエヌエー)
    超音波気管支鏡を用いて気管支外にある病変を確認した上で,気管支壁を貫いて病変に針を刺し組織や細胞を吸引して採取します.
  8. 経食道的超音波気管支鏡ガイド下針生検(EUS-B-FNA;イーユーエスビーエフエヌエー)
    超音波気管支鏡を用いて食道内腔から食道を貫いて病変に針を刺し,組織や細胞を吸引して採取します.
  9. 気管支洗浄
    病変の近くを生理食塩水で洗い,それを回収して細胞を採取します.
  10. 気管支肺胞洗浄(BAL;バル)
    末梢気管支や肺胞内に生理食塩水を注入し,それを回収して細胞や肺胞内の液体を採取し ます.
  11. クライオ(凍結)生検
    凍結凝固装置を用いて組織の一部を凍らせて採取します.

     

Q8:気管支鏡検査ではどんな合併症が起こる可能性がありますか?

A8:合併症には以下のものがあります.検査の内容によっては起こりやすい合併症や各検査に特有の合併症が存在することがありますので,各検査の説明文書を参照してください.合併症に対しては様々な追加の処置が必要になることがあります.
(括弧内の頻度は2016年気管支鏡全国調査によるものです)

  1. 肺・気管支からの出血 (合併症発生率0.45%)
    細胞や組織を採取する際には少ないながらも必ず出血を伴います.通常は少量の出血ですぐに止血しますが,まれには出血量が多くなる場合があります.その際には状況に応じた止血処置を行います.処置には,止血剤の注入を行ったり,気管支内に風船を入れて出血している気管支を塞いだりすることがあります.極めてまれですが救急救命的に人工呼吸が必要になった事例や死亡例の報告もあります.
  2. 気胸 (合併症発生率0.70%)
    組織をつまみ取る際に肺を包む胸膜という薄い膜を傷つけることがあります.そこから胸腔(注5)内に空気が漏れると肺が縮み「気胸」という状態になることがあります.通常は程度の軽いことが多く,2~3日の安静のみで軽快します.喫煙などによって肺が傷んで肺気腫などを合併している場合には空気の漏れの多いことがあり,体の表面から胸の中に管を入れて肺の外に漏れた空気を抜き取る処置(胸腔ドレナージ)が必要になることがあります.
  3. 発熱や肺炎 (合併症発生率0.46%)
    検査後,まれに発熱したり肺炎を起したりすることがあります.状況によって抗菌薬の投与を行いますが,ほとんどが一時的なものです.
  4. 麻酔薬によるアレルギーや中毒 (合併症発生率0.03%)
    リドカインという局所麻酔薬に対するアレルギー反応を起す場合がまれにあります.その際には気管支鏡検査を中止し必要な薬物投与を行います.麻酔薬の量が体にとって過量になると中毒症状(不安・興奮,ふらつき,血圧低下,不整脈,けいれんなど)を起すことがあります.中毒症状については時間が経過すれば体内で解毒されますのでさほど心配はありません.
  5. その他
    まれですが喘息発作(合併症発生率0.07%),呼吸不全(0.07%),心筋梗塞,不整脈などの心血管系の障害(合併症発生率0.06%),気管支閉塞(合併症発生率0.002%)などの報告があります.ごくまれですが,ここには記載していない合併症,予期しない偶発症が発生することがあり,死亡例(0.01%)の報告もあります.

     

Q9:気管支鏡検査による利益,不利益を教えて下さい.

A9:
(1)利益
気管支鏡検査によって病気の正確な診断を得ることができれば適切な治療を受けることができます.
(2)不利益
気管支鏡が通る気道は気管支鏡に比べて十分に太いので,息が出来なくなることはありませんが,咳が出たり,息苦しさを感じたりすることがあります.また,せっかく気管支鏡検査を受けても,病変部から組織や細胞が採取できず正しい診断が得られない場合や,正しい診断が得られても適切な治療がない場合もあります.更に,合併症が起きれば不利益となります.


Q10:気管支鏡検査に代わる検査はありますか?


A10:気管支鏡検査の主な目的の一つは組織や細胞を採取して診断を確定することですが,残念ながらCT検査やMRI検査,PET検査等による画像診断では確定診断を得ることはできません.
病変部から細胞や組織を採取する他の検査方法として,以下に示すように胸に直接針を刺す経皮針生検法と手術によって病変部を切除する方法があります.いずれも気管支鏡検査より診断を確定できる可能性は高いですが,様々なマイナス面も見られます.

  1. CTガイド下生検
    主に肺の中にある病変に対して行われます.CTで病変の正確な場所を確認しながら,局所麻酔下に皮膚から胸の中に向けて針を刺して,病変から組織を採取します.気管支鏡検査より診断を確定できる可能性は高いですが,気胸などの合併症が起こる危険性が高まります.また病変が癌である場合,ごくまれに胸腔や皮下に癌細胞を拡げてしまうことがあります.
  2. 外科的生検(手術)
    胸腔鏡下生検(VATS;ヴァッツ生検)と開胸生検があります.いずれも全身麻酔で行われます.胸腔鏡下生検では先端に小型カメラを装着した胸腔鏡という器械で胸の中を覗きながら行います.通常は胸に小さな穴を開けて(切開)胸腔鏡を挿入し,胸の中を観察しながら病変を切除,採取します.開胸生検では胸を開いて肉眼で確認しながら病変部を切除,採取します.いずれの方法とも診断率は非常に高いのですが,全身麻酔による体への負担があり,また気管支鏡検査より入院期間が長くなります.
  3. 縦隔鏡下生検
    左右の肺にはさまれた中央の部分を縦隔といいます.縦隔には心臓や気管,食道などがあります.主に縦隔にある腫れたリンパ節や,縦隔にひろがった腫瘤(注6)の生検のために行います.縦隔鏡は胸腔鏡と同様,全身麻酔下に行われます.縦隔鏡は硬い筒状の器械で,これを通して縦隔の内部を観察し,病変から組織の採取を行います.縦隔鏡は胸骨の上の皮膚に穴を開けて(切開)挿入します.合併症としては,嗄声(させい:声がかすれて出にくくなる),血管損傷,出血などがあります.

     

Q11:気管支鏡下治療にはどのようなものがありますか?

A11:主な気管支鏡下治療法としては以下のものがあります.

  1. 気管・気管支が狭くなる病気に対し,気管・気管支内腔を拡張して呼吸を楽にする治療
    1)レーザー,高周波,マイクロ波凝固,アルゴンプラズマ凝固,凍結凝固などで腫瘍を焼いたり切り取ったりする方法
    2)ステントという管を入れて狭い部分を拡げる方法
    3)上記1),2)を組み合わせる方法
  2. 誤って吸い込んだ歯,義歯,ピーナツなどの異物を取り除く治療(異物除去)
  3. 温熱によって重症喘息を改善する治療(気管支熱形成術あるいは気管支サーモプラスティ)
  4. シリコン製の栓を気管支に詰め,気管支や肺から漏れる空気を止める治療(EWS)
  5. 気管や中枢気管支の内腔に発生した癌を光感受性物質とレーザーで治す治療(光線力学療法)
    *詳しい内容はそれぞれの治療毎の説明書に記載されていますので,主治医にご確認ください.

     

Q12:医学用語は難しいので解説をお願いします.

A12:難しい医学用語を解説します
注1 病変(びょうへん),病巣(びょうそう):
病気によって起こる体の組織の変化を病変といい,病変のある部位を病変部あるいは病巣という.
注2 生検(せいけん):
病気の診断を行うために病変部から組織を採取する方法.バイオプシーともいう.
手術で切り取ったり,生検鉗子(注7)で一部をつまみ取ったり,針を刺して取ったりする方法がある.
注3 擦過(さっか):
病変部から小さなブラシ(図4)やキュレット鉗子(図5)などで細胞をこすり取ること.

    
図4 ブラシ     図5 キュレット鉗子

注4 透視(とうし):
エックス線で体を透かし見ること.鉗子やブラシなどの器具の位置を確認しながら病変近くまで誘導できる.エックス線をしようするため放射線曝露を伴う.
注5 胸腔(きょうくう):
胸壁で囲まれた胸の内側の空間.胸膜で覆われ,肺・心臓などを収めている.
注6 腫瘤(しゅりゅう):
はれもの,しこり.癌のような悪性のものと,良性のものがある.
注7 生検鉗子(せいけんかんし)(図6):
細いワイヤーの先にマジックハンドのように組織をつまみ取る道具がついた器具.


図6 生検鉗子

※図は気管支鏡テキスト第3版(日本呼吸器内視鏡学会編集,医学書院)より引用


令和3年1月
安全対策委員会

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